読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

へのへの!

henoheno(ハワイ語)=かわいい=霧矢大夢さんと日々のあれこれ

夢と現実と――日生劇場『ビッグ・フィッシュ』

デコルテを美しく見せるかっちりとしたオフショルダー、風が吹いたかのようにふわりと広がった裾。紺碧のクラシカルなワンピースをまとって現れたその人は、やわらかな金色の光をまとっているようだった。

 

ななななんて美しいんだ……!

いやいや、美しいのは充分知ってるけど、え、でもこんなに綺麗って??

 

ファンの欲目と言われればそれまでだが(笑)、最期の時を迎えるエドワードの前に立つサンドラは、神々しいほどだった。それはある意味、「過剰な美しさ」だった。

 

どうして、こんなに彼女が「美しくある」のか。

そのとき、彼女がこれまでどうやって生きてきたか、わかった気がした。

 

 

普段はバリバリのセールスマンとして各地を飛び回り、帰宅すれば夢とも現ともわからない話を家族相手に繰り広げる無邪気な夫・エドワード(川平慈英さん)。

芝居は、エドワードがこれまで語ってきた壮大な物語を振り返りながら、死期が近づいたエドワードと、幼い頃から彼の物語が信じられず、けれど理解したいと葛藤するウィル(浦井健治さん)、この父子ふたりの関係を中心に綴られる。

 

www.tohostage.com

運命を予言する魔女、洞穴に住む巨人と、エドワードの語る話は実にファンタジック。そして、どの物語でもヒロインは妻・サンドラ(霧矢大夢さん)だ。

 

幼いウィル曰く、「パパの物語のなかの美人はいつもママ」

 

※初めてこのせりふを聞いたとき、「エドワード、私と一緒だよーーー!」と心中で叫んだ。だって私も、小説などに出てくる「美人」設定の女性は、しょっちゅう霧矢さんで夢想してるもの(笑)。

 

そんなエドワードさまさまで、踊り子を目指していた若きサンドラ本人はもちろん、戦場に現れたきらびやかなショースター(※サンドラではない)まで霧矢さんが演じてくれるのだから、ファンは涙目!

 

エドワードの物語のなかのサンドラは、そんなふうにいつでもきらめいているが、現実のサンドラはそれよりはもう少しおとなしく、ぶつかり合う夫と息子の間を取り持つ、優しい奥さんだ。

 

あるときは、父の身勝手さに苛立つウィルに、あなたたちは世界で1位、2位の頑固者、そんな2人を愛していることが「私の厄介な宿命なのよ」――そう言ってやわらかくほほえむ。

 

またあるときは、死に怯えるエドワードに対し、「どんな場所だろうと、あなたがいるところが私の家」(『屋根はいらない』)と語りかけ、彼を強く抱きしめる(エドワードの腕をさするさまに実感がこもっている)。

このシーンの霧矢さんは、さすが包容力系男役の名をほしいままにした人だ!と膝を打つほど、舞台に大きな愛情を描き出す。それを受け止める川平さんの熱演もあいまって、毎回必ず涙が流れてしまうナンバー。

 

それにしても、サンドラと結婚したエドワードいいなあああ(๑´ロ`๑)、と思わざるをえない。

 

仕事仕事で育児もロクにせず、帰ってきたらきたで夢みたいな話しかしない。

けれど、そんな夫をいつでも優しく迎える美しい妻。最高でしょ!!

 

その、常に美しいまま、優しいままの彼女は、終盤で最高の麗しさを見せる。

 

ウィルとの確執を乗り越え、ついに最期のときを迎えたエドワードのもとに、彼が紡いできた物語の登場人物たちが現れ祝福する。

魔女の予言どおり、自分の「終わり」が幸福なものだったと涙ぐむエドワード。と、周りを見回し、「僕の物語には彼女がいなければ」。

 

そうつぶやくエドワードの背後から光とともにやってきたのは、紺碧のクラシカルなワンピースに身を包んだサンドラ。耳元でゆるやかにカールするブロンド。まさに「稀代のヒロイン」だ。眩いその姿に年齢は見えない。

 

いや、このドレス姿のサンドラ自体、いまわの際にエドワードが見た、それこそ「夢」だ。実態ではないはず。

言い換えればサンドラは、最後の最後までそんな「夢」を彼に見せることができた女性だった。

 

霧矢さんは美しい。

もちろん、こちらはイタタなファンだから高性能のファンフィルターがかかっていることはたしか。

 

でも、このシーンの霧矢さんの美しさは、ただの「綺麗」を超えていた。

それはおそらく、サンドラがエドワードの物語を完結するために美をまとっているからではないか。

つまり、「物語の登場人物」として作り込んだものだからこそ、サンドラは過剰ともいえる美しさを放っていたのだ。

 

彼女は、最高の美をたたえていなければならない。

だって、パパの物語のなかの美人はいつもママ、なのだから。

 

エドワードの前でサンドラは、いつもまごうかたなきヒロインだった。彼女は、夫が留守の寂しい日々でも笑みをたやさず、そんな理想の女性を演じ続けたのだろう。

 

なんでそんなことを?って、もちろん、彼を愛していたから。

それが彼女の「厄介な宿命」だったのだ。

 

 

けれど、霧矢さん演じるサンドラは、ただ美しいだけでは終わらない。

 

エドワードが旅立っておそらく数年後。

ウィル夫婦の間にできた赤ちゃんは、今はもう活発な男の子だ。

幸せそうに肩を寄せ合って湖畔に佇むウィルと妻のジョセフィーン(赤根那奈さん)。

 

と、下手の袖からサンドラがやってくる。

彼女の視線が若夫婦の後ろ姿をとらえたと思ったら、そのまなざしは、ふと2人から外れ虚空に放たれる。

 

その瞬間、彼女の体全体にズサリと暗い影が刺さったようだった。

 

かつて自分も得ていた幸福。でも、もう2度と得られない幸福。

不幸、というわけではない。

けれど、うつむいたサンドラの瞳からは、人生のパートナーに先立たれたというたとえようもない寂寥感が波のように押し寄せた。

 

そこにいたのは、圧倒的に美しいヒロインでもなんでもない、初老のごく普通の女性。

 

 物語の登場人物ではないサンドラの顔を初めて見た、と思った。

人間の顔、だった。

 

 

完璧なヒロインであると同時に平凡な人間。

双面〈ふたおもて〉のサンドラは、夢見るエドワードを、現実世界、家族につなぎとめる紐帯として生きた。

 

そんな彼女は、息子一家と一緒に、今日も大好きなバーベキューをする。

 大きなトングを持って笑うサンドラは、きっと美々しく、キュートに、ヒロイン然と、この平凡な日々を目いっぱい楽しんでいるのだろう。